R)一杯のかけそば

R)一杯のかけそば
また1年が過ぎて――。 北海亭では、夜の9時過ぎから
「予約席」の札を2番テーブルの上に置い て待ちに待ったが、
あの母子3人は現れなかった。 次の年も、さらに次の年も、2番テーブルを空けて待ったが、3人は現れ なかった。 北海亭は商売繁盛のなかで、店内改装をすることになり、テーブルや椅子 も新しくしたが、あの2番テーブルだけはそのまま残した。 真新しいテーブルが並ぶなかで、1脚だけ古いテーブルが中央に置かれて いる。 「どうしてこれがここに」 と不思議がる客に、主人と女将は『一杯のかけそば』のことを話し、この テーブルを見ては自分たちの励みにしている、いつの日か、あの3人のお客 さんが、来てくださるかも知れない、その時、このテーブルで迎えたい、と 説明していた。 その話が「幸せのテーブル」として、客から客へと伝わった。わざわざ遠 くから訪ねてきて、そばを食べていく女学生がいたり、そのテーブルが、空 くのを待って注文をする若いカップルがいたりで、なかなかの人気を呼んで いた。

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