R)一杯のかけそば
2人の男の子を 連れた女性が入ってきた。
女将は女性の着ているチェックの半コートを見て、
1年前の大晦日、最後 の客を思いだした。
「あのー……かけそば……
1人前なのですが……よろしいでしょうか」
「どうぞどうぞ。こちらへ」
女将は、昨年と同じ2番テーブルへ案内しながら、
「かけ1丁!」
と大きな声をかける。
「あいよっ! かけ1丁」 と主人はこたえながら、
消したばかりのコンロに火を入れる。
「ねえお前さん、
サービスということで3人前、出して上げようよ」
そっと耳打ちする女将に、
「だめだだめだ、そんな事したら、かえって気をつかうべ」
と言いながら玉そば1つ半をゆで上げる夫を見て、
「お前さん、仏頂面してるけどいいとこあるねえ」
とほほ笑む妻に対し、
相変わらずだまって盛りつけをする主人である。