R)涙のシャンプ―

R)涙のシャンプ―
素敵な親子の誕生日
・・・うん、はい、わかりましたやってみます。
メイクの準備にかかってから間もなく、おばあちゃんはすでに身体を横に傾
けて居眠りをはじめていました。
うわぁ、なんか、やりにくそう・・・・。
そう心でつぶやき、不安な気持ちをかんじながら、
おばあちゃん今からお化粧するね、きれいになるからね。
と語りかけ、
おばあちゃん」、お誕生日おめでとうございます。ところでいくつになったの
ですか?
たぶん返事はないだろうと思っていたら、なんと
六十と・・・、う~ん・・・・わしゅれたぁ・・・・と!?
聞き取りにくい、消え入りそうなちいちゃな声でありましたが、なんと
おばあちゃんが返事したんです。それはビックリしました。
えっ?!60ちょっとね。まだ若いねぇ、おばあちゃん。
おばあちゃんからの返事はありませんでいたが、歯のない顔でニコーっとし
ました。
すると、近くにいた息子さんがソーっと私のそばに来て耳元で、
じつは、今日で91歳になったんですよ。
ひえぇ~っ!91歳?!すっごーい元気ですねぇ~よかったね、おば
あちゃん。みんなに誕生日してもらえて・・・。
途中、先輩にブローを手伝ってもらいながら、自分にできる限り、一生けん
めいメイクしました。
そして、最後に口紅をつけていた時です。なんと、おばあちゃんがかすかに
目を開きました。そして、にっこりと微笑んだのです。
これには本当にビックリしました
私は、美容師としてサロンで働き始めて、一年を迎えようとしています。
美容師を志したのは、子供の頃からです。
家庭で結婚式に参列する機会があり、お嫁さんが、とても可愛くてきれいだっ
たことが強く印象に残っていて、そのときからずっと自分もおおきくなったら
あんなお嫁さんになりたいなぁーと思っていました。
自分自身もオシャレに関してはすっごく興味があるし、きれいでありたいし、
人もきれいにしてあげるのも大好きです。
だから今でも、将来のお嫁さんのヘアメイクや結婚式のプラニングなど、
ブライダル関係の道に進みたいというゆめをもっています。
そして、自分なりにやっと美容の仕事が少しわかってきました。その夢の実
現に向けて、今、サロンワークに日々奮闘中です。
そんな私に、忘れられない出来事がありました。
美容師になって半年が過ぎた10月のある日のことです。
一台のワンボックスが店の前で止まりました。しばらくしておばあちゃん
を抱きかかえた六十前後の男の人の姿が見えたので、あわててドアを開ける
とその男性が、
すみません。予約していないのですが、おばあちゃんのセットとお化粧を
していただけませんか?
とおっしやるので、
あっ、おばあちゃんですね?セットっとメイクですね。ハイ、わかりました。
ではこちらえどうぞ。
とお答えしました。一緒に歩きながら、男性は、
うちのおばあちゃん今日が誕生日なんです。その誕生日を家族や親戚一同
それに知人や私の友人たちがみんなでお祝いしてくれるといってくれている
です。それで少しでもきれいにしてからみんなに見せてあげたいなぁと思って
あぁそうなんですかそれはおめでとうございます。
息子さんに抱きかかえられたままセット椅子に座らせられても、おばあちゃん
ジーと目を閉じたままでした。そのおばあちゃんは動けない、歩けない、言葉も伝えきれないなど、自分では何もできませんでした。
先生、あの~、今来られたおばあちゃん、セットとメイクなんですけど、
そう、郁美ちゃんしたら?
え?私が?、できるかな・・・。
少し不安そうな顔をしたら、
大丈夫だよ、がんばってやってみたら。

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