魂が求めていた仕事

魂が求めていた仕事
そんな風に言ってもらえるなんて・・・。でもオレ、今、人間不信になって、大人が信じられないん
だ。だから店長の好意も、今のオレには素直に受け取れない・・・。ゴメン
大人が信じられないなんて悲しすぎる。
わたしは何もしてあげられない、何をしてあげればいいのだろう。
こんなに深い悲しみを、若い彼がたった一人で受け止めようとしているのに・・・。
突然、私の口から、ありもしないのに、
夢追い人には家族割引があるのよ。だから森田君と弟さんには、ずっとずっと家族割引半額!
遠慮しないで使って。そして・・。もう大丈夫と思える時がきたら、そのときから正規の料金をいた
だくからね。私はこれだけ伝えるのが精一杯でした。
それから三年・・・。
ある春の日。晴れやかな顔をして二人がやってきました。
もう大丈夫です。ずっと割引していただいてありがとうございました。弟も神戸大に合格して神戸に
行くので、オレひとりになるから料金をもとに戻してください。
そう言って、二人は深々と頭を下げました。
うれしくて、うれしくて、こんなに感動した日はありませんでした。
この三年間、彼は深夜の肉体労働をしながら家族の生活を支え、苦しいとき、つらいとき、またうれ
しいことがあるたびに店に顔を出してくれました。
弟さんが神戸に行ってからも、
店長、彼女を幸せにするのにはどうしたらいいの?
店長、親を幸せにするのはどうしたらいいの?
そんな相談に応えているうちに、これから私は美容師として、どのような道に進めばよいのか、森田
君兄弟に教えていただいたように思います。
お客様に教えてもらいながら、お客様と一緒に成長したらいいんだ。
先生が昔、教えてくれた言葉。
お客様の幸せずくりのお手伝い。
髪も身体も心も、みんなきれいになぁれ。
美容師になってよかった。
美容、の美の字も知らず、偶然が重なるようにしてなかった美容師、本当は偶然などなく、すべて必
然。自分の魂が求めていたのが、美容師だったのです。
人は常に、前に向かって成長しようとしています。私も美容室というこの場を借りて。
私は美容師という仕事を誇りに思い、すべての繋がりに感謝します。

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