美容に寄り添う人の、人に寄り添う美容

美容に寄り添う人の、人に寄り添う美容

私がまだ店長にになる、ずっと前の話です。
今のお店に異動になって、たどたどしいながらもスタイリストとして、よう
やくちょっとは形になってきたかな、と思えるようになってきたところ、一人の
お客様に出会いました。独立することになった、当時の店長からの引継ぎの
方でした。
その、とても小さく、いつもニコニコ笑っている80歳ぐらいのかわいらしい
おばあちゃん、スタッフの間で密かに チヨちゃん と呼ばれていました。
チヨちゃんはとてもオシャレな方でした。
トレードマークの真っ黒に染めたショウ-トボブをいつでも風になびかせて、
杖はついていましたが、いつも一人で歩いて、月に一度は必ずカラーとカット
をしに来店されていました。
チヨちゃんは本当にいつも笑っていて、
今日は天気がよくて気持ちちがいいね。
ここに来るとホッとするよ。ニコニコ。ニコニコ
プラス志向の言葉と笑顔が、いつも私に向けられていました。
ステキになった。
ああ、本当に来てよかった。
ニコニコ。ニコニコ。
お帰りになるチヨちゃんを見送る私の顔も、本当に自然に笑顔になっている
・・・。それがチヨちゃんです。
それは、ものすごくよく晴れた、抜けるような青い空の日でした。いつもの
ようにお見送りに出た私に、チヨちゃんは、いつもとは違う神妙な様子で耳に
顔を寄せて、ボツリといいました。
来月ちょつと入院することになったの、手術をするんだけどね。この歳で手
術をする体力があるのはすごいっていわれたくらいだかりら、大丈夫。再来月に
はまた来るからね。
ものすごく晴れた日の午後の光の中を歩き出したチヨちゃんに、思わず叫び
かけました。
二か月後、待ってますからねぇ!
立ち止まって振り向いてうなずくチヨちゃんは。いつもニコニコ顔でした。
そして二か月が過ぎました。
チヨちゃんはまだ来ません・・・。
約束の日が終ろうとしていました。
気になった私は、チヨちゃんのお宅に電話をしました。電話にでてこられた
のは男性の声でした。
ビューティ島田の米山と申します。千代様はご在宅ですか?。
少しの沈黙・・・。
御用件は?。
あ、申し訳ございません。美容室で水野様を担当させていただいていて、そ
ろそろお約束のころかと思いまして、お電話させていただきました。
するとその男性は、
あの、すみませんが千代はちょっと遠くで入院することになったので、もう
こちらには戻りません。いろいろお世話になりました。
そうゆうとあわただしく電話を切りました。
なぜか、胸がザワザワしました。
おかしい・・・。何だろう、よくわからないけど・・・。
しばらくすると店の電話が鳴りました、その電話はチヨちゃんの娘さんから
でした。
先ほどはすみませんでした。実は母は先日他界しました。長い間、ほんとう
にお世話になったようで、ほんとうにありがとうございました。
私は、いてもたってもいられず、その日、無理をいってチヨちゃんのお宅へ
うかがい、お線香をあげさせていただきました。
私はとても悔やみました。
まだまだしてあげられることはあったんじゃないか。
最後のあの時、もっとかける言葉があったんじゃないか。
大丈夫って言っていたのに・・。
美容の仕事って、ただお客様に出会えて、美しくて、楽しいなって事ばか
りじゃないんだ。
こういう、お客様とのつらい別れもあるんだ。美容師なんていったって。一
人ひとりの命の前ではなんて無力なんだ・・。
そう思って、落ち込みました。
それから一年が位すぎたある日。
突然、チヨちゃんの娘さんが来店してくださったのです。
遠くにお住いのはずの娘さんが、
たまたまこちらに来る用事があったので。
と、お店に来て、私を指名してくださったのです。
うれしくてうれしくて、なんとも言えない気持ちでした。
そんな私に追い打ちをかけるように、こうおっしゃったのです。
本当にもう一度、ちゃんとお礼をいいたくて、母はとてもオシャレな人
でした。その母をいつもきれいにしていただいて、そして最後の最後まで、き
れいなままで母も逝くことができて、きっと喜んでいると思います。ほんとう
にありがとうございました。
その言葉を聞いて、私の中に熱いものが込みあげてきました。
私だって無力じゃなかったかもしれない。
オシャレなチヨちゃんの、オシャレな部分に最後の最後まで協力できていた
のかもしれないって。
チヨちゃんが入院する時も、まるでお出かけに行くかのように髪をきれいに
していました。その髪は、私が担当したのです。
チヨちゃん。
私は相変わらずこの店で、今でも店長をしています。もう三十路だって超え
ちゃいました。店の一番の古株です。
もういいかな? もうそろそろ引き際かな? そんな風に思うこともあり
ました。でも、
今までいろいろ担当してくださる方が変わってきたけど、もう米山さんで最後
にしたいの、辞めないでね。
そう言ってくださった、あの頃のチヨちゃんと同じ位の年代の、そしてチヨ
ちゃんのようにオシャレなお客様がいるんです。
病気になって店に来ることができなくなっても、それでも米山さんのカット
がいいとおっしゃってくださる方がいるのです。
私は、少し誰かのためになれているんでしょうか?
チヨちゃん。私のあこがれを言います。私の大好きな本を借りて
人に寄り添う美容
チヨちゃん。私はヘアだけではなく、その人の人生に寄り添える、そんな
美容をしたいと思うようになるようになりなした。
今でもあの青空の下、振り返ったチヨちゃんのニコニコ顔をはっきりと思い
出します。
これからも私の心の中に、たくさんののニコニコ顔を刻んでいきたいと思って
います。

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