R)一杯のかけそば
この物語は、今から15年ほど前の12月31日、
札幌の街にあるそば屋 「北海亭」での出来事から始まる。
そば屋にとって一番のかき入れ時は大晦日である。
北海亭もこの日ばかりは朝からてんてこ舞の忙しさだった。
いつもは夜の12時過ぎまで賑やかな表通りだが、
夕方になるにつれ家路につく人々の足 も速くなる。
10時を回ると北海亭の客足もぱったりと止まる。
頃合いを見計らって、人はいいのだが無愛想な主人に代わって,
常連客から女将さんと呼ばれているその妻は、
忙しかった1日をねぎらう、
大入り袋 と土産のそばを持たせて、
パートタイムの従業員を帰した。
最後の客が店を出たところで、
そろそろ表の暖簾を下げようかと話をして いた時、
入口の戸がガラガラガラと力無く開いて、
2人の子どもを連れた女 性が入ってきた。
6歳と10歳くらいの男の子は真新しい揃いのトレーニン
グウェア姿で、女性は季節はずれのチェックの半コートを
着ていた「いらっしゃいませ!」 続く