心の癒し。

かけそば 4
商売繁盛のうちに迎えたその翌年の大晦日の夜、
北海亭の主人と女将は、 たがいに口にこそ出さないが、
九時半を過ぎた頃より、そわそわと落ち着か ない。
10時を回ったところで従業員を帰した主人は、
壁に下げてあるメニュー 札を次々と裏返した。
今年の夏に値上げして「かけそば200円」と書かれ
ていたメニュー札が、150円に早変わりしていた。
2番テーブルの上には、
すでに30分も前から「予約席」の札が女将の手
で置かれていた。
10時半になって、
店内の客足がとぎれるのを待っていたかのように、
母とと子の3人連れが入ってきた。
兄は中学生の制服、
弟は去年兄が着ていた大きめのジャンパーを着ていた。
2人とも見違えるほどに成長していたが、
母親は色あせたあのチェックの半 コート姿のままだった。
「いらっしゃいませ!」
と笑顔で迎える女将に、
母親はおずおずと言う。
「あのー……かけそば……2人前なのですが……
よろしいでしょうか」
「えっ……どうぞどうぞ。さぁこちらへ」
と2番テーブルへ案内しながら、
そこにあった「予約席」の札を何気なく 隠し、
カウンターに向かって 「かけ2丁!」
それを受けて 「あいよっ! かけ2丁!」
とこたえた主人は、玉そば3個を湯の中にほうり込んだ。
2杯のかけそばを互いに食べあう母子3人の
明るい笑い声が聞こえ、



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